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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)5838号 判決 1969年12月24日

原告 中川九朗

右訴訟代理人弁護士 大西保

同 今泉政信

被告 朝生佳志

右訴訟代理人弁護士 円山潔

同訴訟復代理人弁護士 高木正也

同 野口三郎

主文

原告の第一次的請求につき、訴を却下し、第二次的請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  第一次請求として別紙図面記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線で結んで囲む赤斜線部分の土地(以下本件土地という)について被告の所有権の存在しないことを確認する。

2  第二次請求として被告は本件土地について原告の通行権の存在することを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の第一次請求を却下する。

2  原告の第二次請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、請求原因

1  被告は本件土地の北西側に隣接する東京都世田谷区下代田町一七一番地の二所在宅地三五九・三〇平方メートル(一〇八・六九坪)の土地を、大蔵省から買受けて所有しているが、本件土地を右買受にかかる土地の一部分であると主張し、右土地上にブロック塀を築造しようとしている。

2  原告は本件土地を含む二間(約四メートル)幅道路の北側で、右被告所有地の東側に位置する同所一七一番地の六所在宅地七四八・七三七平方メートル(二二六・八九坪)を所有し、右二間幅道路を自動車の出入に常時使用している。

3  本件土地は公道である。

(一) 本件土地は昭和一六年一二月一五日頃すでに幅員二・二メートル(側溝〇・二メートルを含む)の公道であったところ、当時本件土地の東南に隣接する土地を賃借使用していた安部権多が同所にタドン製造工場設置のため地主中村勘左衛門の承諾を得てその使用土地を提供して、幅員一・八メートルを拡げて合計幅員四メートルの道路となし、警視総監に建築線の指定を申請し、右指定を受けたものである。

(二) 本件土地が公道であることは、別紙図面表示の地点に現在も生き残っているマサキその他の樹木および古びた石垣によって明らかである。

4  しかるに被告が本件土地を自己の所有地として取り込まうとするに至ったのは、昭和三五年一〇月二五日頃、東京都財務局用地部係員鈴木貫司が公共用地境界確認実地調査に際し、公道部分(本件土地)とこれに接続して拡幅された私道部分とを、とり間違えて実測図面を作成したため、これを奇貨として右の挙に出んとするものである。

よって右土地上に原告の所有権が存在しないことの確認を求める。

5  以上の主張が認められず、仮に本件土地が被告の所有であるとしても、原告には次の理由により、右土地の通行権がある。

(一) 被告は前記一七一番地の二の土地を買受けるとき、本件土地を原告ら隣人に通行させることにつき、黙示の承諾を与えたものである。すなわち原告らは本件土地の前主芹沢新平こと芹沢宏吉から右土地を通路として使用することを認められており、芹沢が右土地を国に物納したのち、国から払下げを受けた被告としても、その後原告らの通行に何らの異議もとどめず現在に至ったものである。

(二) 仮に右(一)の事実が認められないとしても、原告は昭和二七年四月二八日以降本件土地を平穏公然、善意無過失で通行のため常時使用したことにより、右土地の通行地役権を時効取得したものである。

(三) 原告所有地は公道に面してはいるが、同地の駐車場へ車で出入するためには、本件土地を通行することを要し、しかも少くとも現在の幅員を要する。よって原告は民法二一〇条所定の袋地所有者の囲繞地通行権を有するものである。

よって被告に対し原告の右土地の通行権の確認を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因事実中、被告が一七一番地の二の宅地を所有し、原告が一七一番地の六の宅地を所有すること、東京都財務局用地部係員鈴木貫司が昭和三五年一〇月二五日頃公道の査定をしたことは認め、その余は争う。

2  本件の争点は被告所有の土地の所有権のおよぶ範囲であり、境界線の確定訴訟なら格別、本訴には確認の利益が存在しない。確認の利益は一定の権利または法律関係の存否について、反対の利害関係を有するものとの間で、これについて確認判決の既判力を得ることが必要かつ適切である場合に認められるのであって、権利または法律的地位が直接他人の主張によって脅かされまたは妨害される場合に、その利益があるとせられる。本件においては被告の所有する土地の所有権のおよぶ範囲につき原告は反対の利害関係を持つ権利または法律的地位を持っていないから、確認の利益の欠缺がある。

第三証拠≪省略≫

理由

一、被告が別紙図面記載の(ハ)、(ヘ)、(ホ)、(ニ)、(ハ)の各点を順次直線で結んだ線内の原告主張の土地を所有し、原告が右土地に(ハ)、(ヘ)を結ぶ直線で隣接する土地を所有すること、ならびに本件土地((イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次直線で結んだ線内)と前記原告所有の土地とは直接境界を接していないことは当事者間に争いがない。そこで、本訴の確認の利益について判断するに、およそ確認の利益は、一定の権利または法律関係の存否について反対の利害関係を有するものの間でこれにつき判決を受ける実質的な利益、すなわち権利保護の利益の具わる場合にのみ認められるものであるが、原告において本件土地について原告の権利の積極的確認を求めるのならば格別、自動車通行という事実行為が脅かされるだけの理由で、ただ被告の所有権のおよぶ範囲を消極的に争うにすぎない以上、権利保護の利益を欠くものと判断するのが相当でありその余の事実を判断するまでもなく、原告の本訴は不適法たるを免れない。

二、次に原告の第二次的請求である本件土地通行権について判断する。

1  本件土地を原告ら隣人が通行することにつき、被告が黙示の承諾を与えた旨の原告主張の事実は、本件全証拠によるも認めるに足りない。

2  通行地役権の時効取得にいわゆる継続の要件としては、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の開設を要し、その開設は要役地所有者によってなされるか、少くともその者の費用や労力によって維持管理されていることを要するものと解すべきところ、本件通路を開設したのは訴外安部権多であることは原告の主張するところであって、しかも原告の本件土地利用をかかる意味における継続的かつ表現のものと認めるに足りる証拠がない。よって通行地役権の時効取得の主張も理由がない。

3  原告所有の土地が公道に面していることは当事者間に争いがない。よって自動車の出入に不便であるからと云って右土地に対し、民法二一〇条の袋地所有者の囲繞地通行権を類推適用すべきものとする原告の主張は失当であり理由がない。

よって原告の請求をいずれも理由なしとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧山市治)

<以下省略>

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